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学ぶ機会を失った人には様々な事情がある

 

工藤 送っていただいたこの本(『ひきこもる心のケア』)を読んでいると、いろいろと勉強になりますね。

 

―― ありがとうございます。

 

工藤 特に第7章の発達障がいについてのインタビューは参考になりました。夜間中学には文字通りありとあらゆる事情を抱えた受講生が来ますから、事情によって誰に相談していけばいいかなと考えます。それで新聞の気になる記事はスクラップしているんです。例えばこんなことがありました。夫の暴力から逃れるために近藤恵子さんがやっている「スペースおん」という駆け込みシェルターに逃げた人がいて、その人が自立するため部屋を借りる算段をしたときに、読み書きが出来ないことが分かったんです。それで我々のところへ来たんですね。そんなケースが年齢に関係なくあります。一般的には特殊なケースなんでしょうけど、例えば無戸籍の若い人たちとかね。あるいは同じ学習障がいでも色々なケースがある。また障がいを持っている人とか。そうなると新聞をじっくり見ていて、「あれ?もしかしたらこういう人が来るかもしれないな」ということがたくさん想定できる。いろんな方がおられますからね。

 

―― そうでしょうね。

 

工藤 この間、「そしあるハイム」というところで11人が亡くなった。

 

―― 私、1月に山内太郎先生という、「労働と福祉を考える会」という北大の学生さんと教員さんが共同で活動している団体代表のかたにお話を伺ったんですよ。そのさい路上生活している人たちが脱路上するときにホームレス支援団体と連携をとって、入居を頼んだりとか。ちょうどそのお話を伺った日の深夜にその火事があったんです。1月31日だと思いますけど。

 

工藤 住居を定めるときに字を書けずに必要な書類を作れない。こういう方がやっぱり来るんですよね。そういう人がけっこう来てて、でもどうも男性の場合は長続きしなくてですね。本当は来てもらいたいのだけれども。

 

―― いちどはやはり夜間中学に通おうと思われるんですか?

 

工藤 ええ。2回か3回か見学に来ますが、その後来なくなる。いろいろとアプローチしていますがどうしたらいいか。遠友塾を立ち上げた頃は、本当に戦争と病気で学べなかったということが遠友塾に来る理由だったんですよ。

 

―― 1990年頃のことですか。

 

工藤 はい。戦争と病気で学校に行けなかった。それは直接、間接ということなんですけどね。また若い人で不登校の子も来ていました。

 

―― そうですか。やはり不登校の子も。

 

工藤 当時から来てました。そしていろんな事情が絡み合って、学びを求めてくるので、結果的にいろんな人の知恵を借りないとダメになってきているんですよ(笑)。

 

―― (笑)特性がさまざまになってきているということなんですかね?

 

工藤 そうですね。

 

―― 環境とか、背景とか。

 

工藤 学ぶ機会を失うというのは、年配の人も若い人もすごくいろんなケースで発生してきていて、いま学びたいと思ったときにその場がないということ。そこが一番のネックで。例えば市立病院に院内学級がありますね。

 

―― ああ、病院の院内学級ですね。

 

工藤 ええ。ところが院内学級で授業を受ける場合に学籍をどこに置くのか。あるいは高校の院内学級がない。やはりそれはすごい問題であって、法的にも未成熟だから。例えば「僕は幸せ」という文章を院内学級の小学校6年生が書き、その10か月後に亡くなったことがあるんです。病気だから学ばなくていいではなくて、本人は学びたいんですよ。学びたいけど学ぶ場がないケースが数多くある。そのようなケースはいろんなところ、いろんな原因で無数に散らばっている。いまも65人の受講生さんが来ていますけど、だんだん年齢層が広がってきて、最高齢は97歳の人が来ています。

 

―― ほぉ~。そうですか。

 

工藤 年配の人から今の若い人まで。この1月から来てる子は本当の中学校2年生。

 

―― 14歳ですか。

 

工藤 普通の学校に行って、別クラスで個人的に授業を受けさせてもらい、そしてウチに来てるんです。

 

―― じゃあ昼間は学校で個人的に教えてもらって、夜はみんなと一緒に。というのはやはり集団の中で毎日勉強するのが苦手?

 

工藤 遠友塾はおばあちゃんが多いんですけど、彼はけっこう楽しく話してるんですよ。そういうケース、老若男女が入り乱れてやっているのが夜間中学の世界(笑)。

 

―― 同世代の人だけが集まっているひとつのクラスってけっこう競争意識とか、ほかと比較して自分はできないとか。いじめもありますよね。同世代ですから自分より上とか下とか区別をつけたい争いみたいなものがあって、いじめが起きる。かつクラスで誰かを疎外することで集団を維持しようとする力学みたいなのが働いて、そのターゲットになった子が学校に行きたくなくなるとか。あるいはそういう雰囲気を敏感に察知する繊細な子どもがクラスの力関係みたいなのものが苦手だということで自分から離れて行ってしまうとか。そのような子どもたちがどこへ行くかというとフリースクールを選ぶ子もいれば、そこも行かないとどこにも行きようがないと。適応指導教室とかは札幌にあるんですか?

 

工藤 あります。14か所くらいあるんですけど、でもそれなりに通える子と、そこも通えない子がいる。

 

―― 僕は適応指導教室というのはさっぱりイメージが掴めなくて(苦笑)。どういうところなのか。名前があんまり芳しくないなと思うところもあるんですけど。でも昼間行けるところ、学びたい子にとっての場所が必要だということであれば、そういう所もあるのかも。

 

工藤 何と言ったらいいのか。僕は場所はどこでもいいと思うんです。その子にとって、ここなら行けるというところであれば。元気になれるところであれば。どこであろうと構わない。

 

―― それはそうですね。

 

工藤 できればそんなにお金のかからないところが望ましい。

 

―― 本来は義務教育ですから無償ですものね。

 

工藤 本来は無償です。だから遠友塾の中で、年齢の異なる人がたくさん入り混じって授業を受けているのを見ると、同一年齢・同一地域という小学校や中学校のシステムがどうも奇妙に思えてくる。

 

 

 

軍隊と学校

 

工藤 それはなぜかというと、明治政府がつくった制度が二つあって。一つは軍隊、もう一つは学校です。そのやり方は同じです。同一年齢・同一地域の人を集めること、徴兵制がまさしくそうですね。

 

―― 軍隊も同一年齢・同一地域?

 

工藤 一定の年齢になったら徴兵年齢になり、同一地域で人を集めて、同一の兵舎の中で訓練する。それと同じやり方で学校をつくるわけです。

 

―― なるほど。やり方は全く同じだと。

 

工藤 まったく同じ。それから上意下達のやり方もまったく同じ。僕みたいに学校の先生でなかった者にはびっくりするような言葉を教員経験者が言うことがあります。

 

―― 今でもあるということですか?

 

工藤 今でもたぶん無自覚的に使っている。それは軍隊時代の流れをひいていると思われるんです。例えば「机間巡視」という言葉がある。

 

―― きかん巡視?

 

工藤 机の間を巡視するという言葉。

 

―― へえ~。

 

工藤 これ、教員の中で使っている人がいます。

 

―― きかん、というのはどういう意味ですか?

 

工藤 机。机の間。

 

―― ああ~(苦笑)。その間を巡視すると。

 

工藤 単純に机の間を回ってチェックしてるだけのことです。それを「巡視する」という。その言葉は、僕から見れば、警察とか刑務官が使う言葉です。それを教員が無自覚に使っているわけです。それからカチンとくる言葉で「学級経営」なんて言葉を使うことですね。

 

―― ああ~。使いますよね。経営という言葉は。

 

工藤 これも全く無自覚です。

 

―― 確か教育雑誌とかでもそういう言葉が……。

 

工藤 載ってます。あれも無自覚なんですよ。僕みたいにずっと会社で働いてきた人間にとってね。学級経営なんて言葉を使われたら、たまらないんですよ。経営なんて冗談じゃないと。そんな「もの」を扱う対象じゃないんだ。だから何ていうのかなあ?素人から見るとね、学校で使われている文言、仕組み、システムがどうも明治に軍隊を作った時と同じことを無自覚なまま引き継いでいることがあるんですよ。だから新たに遠友塾のスタッフをなってもらう人には「頼むから机間巡視なんて言葉使わないでください」と(笑)。

 

―― (笑)さすがに使わないんじゃないですか。

 

工藤 出ることがあるんですよ。

 

―― スタッフさんがですか?

 

工藤 スタッフの中に教員経験者がいるからです。

 

―― ああ。教員経験者ですね。退職された後もそういう言葉、つい使っちゃうんですか。

 

工藤 使います。まったく疑問に思わないで使っているから、タチが悪い。学校の仕組みというのはどこかやっぱり変わってる。私の孫はいま小学5年生で不登校になってるんです。学習障がいだと小さい時から言われてたんですけど、見てるとあいつの一番苦手なものというのは整列!という指示が出た時です(笑)。そうなるとフラフラ、フラフラと(笑)。これも本人にとってみれば別にどってことないことなんですけど、いわゆる決まりを守るとか、一斉にこれをやらなくちゃいけないとか、いわゆる半分強制的な事項が出てきたときに全くデクノボウになる。で、そういう子もいるんだということを考えたときに、その子たちから見ると学校の居場所というのは非常に窮屈ですよね。おまけにそこにいじめが重なってくるわけですから。孫の場合はね、PTA会長の息子がいじめをしたらしい。それで全然行く気がなくなった。あと、今回の教育機会確保法が出来るとき、海外でどうなっているかを調べると、イギリスとかアメリカとでは義務教育でありながら、だいたい1割がフリースクールとホームスクールでやってます。

 

―― 1割くらいが。

 

工藤 ええ。で、それを法的にうまく仕組みを立ててるんですよね。で、逆に言うと一斉的な同一年齢同一地域の建物を作って教員を配置してというやり方での義務教育のあり方というのは、世界的に見ると約1割の子供はそれに適応しない。

 

 

 

近藤恵子―NPO法人女のスペース・おん代表理事の他、NPO法人全国女性シェルターネット共同代表や北海道ウイメンズ・ユニオン書記長を務める。20代から女性運動にかかわり、「女のスペース・おん」を活動拠点として、相談事業・調査研究活動・政策提言活動・教育啓発活動・ネットワーク活動などを展開している。 

 

 

 

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