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夜回り先に集うのは路上生活者だけではない

 

杉本 山内先生は「労働と福祉を考える会」というボランティア団体で、札幌のホームレス支援の活動をされているわけですが、特に今年(2018年)の先週から今週の1月下旬にかけてはかなり寒い日が続いています。こういう時期にもホームレスのかたが100人を越えていた頃というのは、2000何年くらいのことでしたでしょうか?

 

山内 2006年か、7年。それくらいですかね。

 

杉本 リーマンショックがあったりした時期ですよね。「反貧困運動」とかが盛り上がったりもした頃で。

 

山内 そうですね。それくらいでしょうか。

 

杉本 それくらいの頃が非常に多かった。今はまあ三分の一くらいまでに減ったと。

 

山内 そうですね。

 

杉本 見える範囲ではそれくらいなんでしょうけど。しかしこれは大事な問題だと思うんですよね。このきわめて寒い札幌で。もしかしたら道内でも札幌以外にもいらっしゃるかもしれないですけど。

 

山内 そうですね。数は少ないかなと思いますけど、札幌以外の土地でも確認されているみたいですね。

 

杉本 毎週土曜日に夜回りをされているんですよね。

 

山内 はい。

 

杉本 その時に確認できるだけでも20数名とか。

 

山内 そうですね。夜回りをしてるときに会う人の中では路上でない人もけっこういて。結局トータルで30人くらいの人に会ったりしてるんですけど。

 

杉本 路上でない人というのは、どういう人たちですか?

 

山内 年金をもらってるとか、生活保護をもらっているという人も。僕らは夜回りのコースに出て、そこでパンを配ったり、飲み物を配ったりしながら話をするんですけど。そこに来ている人ですね。

 

杉本 ホームレスの人が溜まっているような場所に?

 

山内 はい。そこに混じっていて。

 

杉本 混じって。じゃあその人たちは路上者ではなく、いちおう住処はあるんだけど、出てきている。

 

山内 そうですね。

 

杉本 元路上の人みたいな感じですか?

 

山内 元路上の人もいるし、路上に出てはいないんだけど、どこで知ったのか。いらっしゃいますね。

 

杉本 何となく路上生活をしている人と親和性を感じて?

 

山内 はい、そうです。

 

杉本 それはその人たちに取ってみるとほとんど「友だちづきあい」みたいな感じなんでしょうか。

 

山内 う~ん。いや、たぶんそんなに路上生活の人との付き合いという感じでもないかと思うんです。ただその場はその場のコミュニティみたいなのが出来上がっていて、ちょっと僕らを含めて会話をしたり。話し相手みたいなものが欲しいのかなあ?とか思ったり。

 

杉本 例えば家にいづらい老人の人とか、何となく家に一緒にいると気詰まりの人が夜にそういう場所で話し相手を求めて来るとか?

 

山内 いえ。たぶん家族と一緒に住んでいる人ってあまりいないような気がします。ひとり暮らしのような。まあ、夫婦で来てる人も二組ぐらい。

 

杉本 へえ~。

 

山内 まあ、不思議な感じですね。ははは(笑)。

 

杉本 (笑)というのは、ずいぶん昔になるんですけど、96、7年くらいかな?西区のショッピングモールですけど。いまみたいな受動喫煙を防止するために囲ってタバコを吸う喫煙スペースに封じ込めるような形になっていなくて、大画面スクリーンのテレビが何台か置いてあるところに喫煙スペースもあったんですね。私はそこに清掃の仕事で日勤者として入ってまして。午後、夏場は2時から10時まで。冬場は1時から9時まで居て、タバコが溜まってくるので、一日に何回か取りに行くんです。そうするとず~といる人はいるんですよね。で、明らかにこの人たち、路上だなという人もいれば、どうもそうではないぞと。家に帰っているなと思われる人と。そういう人たちが毎日顔をずっと見せてて、どうもこの人たち路上だなという人とけっこう話してたりとか。何となくひとりで来てるんだけど、そこでタバコを吸ったり、特に何もすることもないからテレビを見てたりする人たちが毎日顔を合わせるんで。自然に会話、コミュニケーションが成り立っている。毎日清掃でタバコの灰を取りに行ったり来たりしてると、そういうコミュニケーション風景を見て、けっこう不思議な関係だなと(笑)。特にそんな親密な関係があるようには思えないし、仲がそんなにいいとも思えないんだけど、半日以上一緒に過ごしたりしてるので、コミュニケーションが成り立っている様子があって。その中には女性も。おばあさんなんかもいるし、中年男性もいるしみたいな感じで。それとちょっと近い感じがあるのかなあ?と。

 

山内 そうですねえ。まあ、おそらく夜回りの時だけなんだろうなあと思うんですけども、毎週顔を合わせるというか、ちょっと平日どんな風に過ごしているのかは解らない部分もあるんですけどね。

 

杉本 土曜日以外どう過ごされてるかはわからないけれども、でもおそらく毎週のように顔を合わせてるとすれば、ほぼ来てる。

 

山内 そうでしょうね。家にいても、というよりやっぱりパンをもらえる。パンを配ってるんですよ。フードバンクからもらってくるパンを。それをもらえるから来てるんだろうなとは思うんですけど。でも話をしたいのかもしれない。だけどすぐ帰っちゃう人もいるんですよ。

 

杉本 ほお~。

 

山内 何か本当にパンだけを取りに来てる、みたいな人もいます(笑)。

 

 

 

ホームレスの人たちのたまり場

 

杉本 (笑)夜回りって炊き出しのように一カ所に来てもらうわけではなくて、妙な言い方ですけれども、要は見て歩くわけですよね。

 

山内 そうですね。エリアを3つくらいに分けてて、札幌駅のあたりをまわる班と、大通りを廻る班と、狸小路やすすきの周りを廻る班とあって。僕、最近ずっと狸小路・すすきのにちょっと張り付いているような感じになってますけど、それは場外馬券売り場の建物に。

 

杉本 ああ、はい。

 

山内 あそこにいるんです。

 

杉本 ええ。いらっしゃいますよね。

 

山内 歩いて「ああ、あの人そうかな」といって声をかけるというのが札幌駅や大通り班にはあるんですけれども、けっこうすすきの班はもうその建物に行く、みたいな。その建物一所で話すみたいな感じになっていて。

 

杉本 実は僕も1回だけ夜回りに参加を。

 

山内 そうですか。

 

杉本 ベトサダの真鍋さんがまだご存命の頃に。

 

山内 ああ~。はい。

 

杉本 北海道のNPOサポートセンターがNPO研修会というもの、2010年の初冬だった頃、1週間か2週間くらいやったことがあったんです。僕はたまたまその時にまた失業中で。参加したんですよね。で、その研修はいろんなNPO団体の取り組みの話を聞くんですけど、最後の1日か2日実際に実習で行ってみるということでベトサダを紹介してもらい行ったんです。その時ベトサダ荘からなんもさサポートの中塚さんがやっているレストラン「あそびば」で真鍋さんから話を聞いて、今度夜回りと炊き出しあるんで参加してみない?ということで。真鍋さんについて行ったことがあるんです。12月初旬くらいだったと思います。地下街ポールタウンから狸小路。最終的にはその馬券売り場の建物に。その時もおそらく「労福会」の人たちもいたと思います。学生さんのような人たちがけっこういた。そこで若い彼らと話す人もいれば、黙っている人もいるんですけど、やはり何人かホームレスの人が集っていた。

 

 その時は真鍋さんは特定の若い人に付ききりで脱路上の説得モードに入っていて。私も困ってしまって。どうしたものかなと思いつつ。たまたまひとりで黙ってベンチに座っていた人がいたので、何となく横に腰掛けてみて、で、「寒いですね」みたいなありきたりの話をしてみたら、実はちょっと喋ってくれそうな人だった。少しずつ喋ってくれるようになって、そのうちに結構饒舌に冬の寒さをしのぐ苦労話とか、対策とか、腰が痛いんだとか話をしてくれて。まあここにホームレスの人が結集してるんだなあとちょっと驚いた。いまもそうなんだなあと聞いて思いました。

 

山内 そうですね。そこに行くとだいたい7,8人はいて、そのうち2人くらいなんですよね。路上の人は。

 

杉本 ああ、そうなんですか。炊き出しもそうですよね?本当のホームレスの人が来てるというよりは。

 

山内 そうですね。

 

杉本 生活保護受給者のような人が、それこそ友だち同士で来てるような。

 

山内 そうですね。そんな感じが。

 

杉本 えらく明るく見える人たちもいるし(笑)。

 

山内 (笑)。そうですね。炊き出しに並ぶ人たちというのは部屋があるけど、ホームレスといってもいいのかなと思ったりもしますけどね。行き場所がないんだなという意味では。

 

杉本 ある意味居場所的な感じなってるんでしょうかね。そうすると本当に頑張って越冬するという人はそんなに多くはないですか?

 

山内 先々週、1月13日の土曜日に厚労省の人数調査をやったんですよね。それでカウントして。路上の人として確認できたのは35人。

 

杉本 その人たちは本当に路上しかない?

 

山内 はい。そうです。

 

杉本 そうですか。それは時間をかけて調べたんですか?

 

山内 夜中の2時くらいか6時、7時くらいまでの時間でいっせいに札幌市内で野宿している人をカウントするという。そういう形でカウントして35人。

 

杉本 何名ぐらいで調査を?

 

山内 調査員は30人ですね。3人一組で10グループ作って。市内、郊外含めてザーッといっせいに見るという感じで。豊平川河川敷とか、あと新さっぽろとか。手稲、栄町、伏古。真駒内までは行ってないかな?

 

杉本 はあ~。で、そういう人たちに一応を声をかけて?

 

山内 調査の時はみな基本的には寝ているので。声はかけてないです。

 

杉本 あ、そうですよね。じゃあ実数だけを調べるみたいな形なんですね。

 

山内 起きていたら声をかけたり。そうすると支援とかもちょっと入って来るみたいなこともありますけれども、基本的には寝ているところをカウントしています。で、札幌はいわゆる掘っ立て小屋とか、ブルーシートでテントを作ってというスタイルはないですから。昼間見ても見分けがつかないんですよね。ですから夜中寝てる人。寝てるということは野宿という話で(笑)。ただなぜこの1月に厚労省もするんだ、北海道のことも考えてくれと。

 

杉本 そうすると夏場は少し増えますかね。

 

山内 2年くらい前まで夏と冬と2回調査していて、やっぱり夏のほうが多いですよね。

 

杉本 どれくらい?2倍くらいになりますか?

 

山内 年にもよるし、どうだろう?解らないですけどね。まあ2倍弱かなともと思います。ただそれもまた難しくて。要は同じように夜中にカウントするんですけど、何か若者が、おじさんでもいいんだけども、キャンプして移動してる人がいる。これも入っちゃったりするんですよ。

 

杉本 なるほど。ホームレスというよりも。

 

山内 旅行者というか。

 

杉本 うんうん。

 

山内 まあ状況は不安定なんだろうな、という感じなんだけれども。部屋を追い出されたとかそういうパターンじゃない人がカウントされてしまうのかな。

 

 

 

札幌のホームレスは本当にお金がない

 

杉本 札幌で路上生活している人たちですが、例えば札幌で働いていて、アパートを出なくちゃ行けなくなり、そのまま居住地がなくなってしまって、別の部屋を探すあてもなくなって路上に出てしまうみたいなことが多いんでしょうか?

 

山内 そうですねえ。家賃滞納で追い出された形が多いんじゃないでしょうか。仕事もその前にクビになるとか、辞めているとかあるんでしょうけど。住み込みだったとか、仕事を失うと同時に部屋も失うみたいな形で路上に出る経路という形もあるのですけど、札幌はそういうケースはあまりないんです。

 

杉本 僕もそんな気がしてたんですね。あまり札幌で住み込みの仕事って、例えば新聞販売所とかもいまそういう形態をとってるかどうか良く分からないですし。例えば年越し派遣村の騒動があったように自動車工場があって、寮とかアパートみたいなものを借り上げて、そこで期間従業員みたいな人が仕事で入るとか、それはおそらく関東とか阪神、中京には多いんでしょうけど。特に東京の場合は……。

 

山内 建築関係が多いんじゃないんですかね。まあその日暮らしみたいな。

 

杉本 そうですよね。現業で通年で働けるような場所があるんでしょうけど。札幌は冬が長いので、出稼ぎにでも行かなければと考えると、逆にあまり住み込み仕事はないんじゃないかなと。

 

山内 やっぱり本州ではけっこう建設関係が直前職というか。路上に出る前は土方をやってたんだ、みたいな人が半数以上そういう形なんだけど、札幌は少数派なんですよね。まあいろんな職種の人たちがいろんな事情で路上に出てる感じですね。あと定住型といったら失礼ですけど、河川敷の公園に住んでいるという感じはないので。そういう形でやっている人たちはけっこう収入源がある。廃品回収とか、空き缶拾いとか。古本を集めて磨いたりとか。

 

杉本 いまでもそういう仕事は成り立っていると?

 

山内 だいぶ厳しいらしいですけどね。でも札幌でそういう形でやってる人はいないですよね。ですから本当に仕事がないから収入も無いんです。年金をもらっていた人がひとりいたんですけど、そのかたもこの間亡くなったので。みんなまったく無一文なんです。

 

杉本 まったく無一文。本当のホームレスなんですね。

 

山内 そうなんですよね。だから本州のほうが実はちょっと仕事はあって、みたいな形であったりするわけですけれども。

 

杉本 これはもう10年以上前の本ですけど、岩田正美さんですね。このかたのフィールドワークを読むと、いまおっしゃったようなホームレスのケースが多いですね。仕事を待ちながら過ごしているとか、仕事をやって6万円もらい、あったけど使い果たしたとか。そういうような話はけっこう載っていて、これはおそらく札幌のケースとは相当違うんだろうなあという感じですね。

 

山内 この間それこそ授業で。いま言った「仕事している/していない」という所で、ちょっとこの資料を見てみると。

 

杉本 パーセンテージですね?ホームレスの人は91%仕事していないと。

 

山内 それは札幌の場合ですね。

 

杉本 全国レベルで見ると、仕事をしている人が多いんですね。

 

山内 そうなんですよ。

 

杉本 ほお~。住所不定者でも雇って。いわゆる「飯場」みたいなものですか?

 

山内 たぶんそれって仕事というのは、廃品回収とか、あとサンドウイッチマンみたいな。

 

杉本 サンドウイッチマン?いわゆる客引きさんですか?

 

山内 はい。

 

杉本 路上の人もそういう仕事にありつける可能性はあるんですか?向こうでは。

 

山内 どうなんでしょうね?僕もちょっと向こうは解んないですけど。まあそうなのかなあという。

 

杉本 ちょっと札幌では想像つかないですね。

 

山内 ええ。

 

杉本 というか僕も町中歩いてる人ではないので(笑)。あの~、全然フィールドというか、札幌市の24時間って想像がつかないんですけど。とにかく冬が大変なのは間違いないですよね。

 

山内 そうですよね。さっき言ったのは厚労省の聞き取り調査の整理したものなんですけど、まず2003年、2007年、2012年に聞いてるんですよ。で、全国全体の傾向では建設関係の仕事だったという人が一定数いるんですよね。北海道の場合はそれがグッと減るんです。最初、2003年頃は全国とあんまり変わらないんですけど。一気にそういう感じの人がいなくなった。

 

杉本 建設業が無くなってきてるのかなあ?

 

山内 それは大きいと思います。公共事業が無くなったというのが大きい。まあもちろん数がね。こっちは聞いた数が20人とか30人とかなんで。パーセントで出してるので偏りはあるのかなと。

 

杉本 母数が少ないというのはあるかもしれませんね。

 

山内 はい。

 

杉本 いずれにしてもそういう仕事もなく。正社員で働いていた感じの人が多かったということですか?非正規もあるでしょうけどね。

 

山内 まあ、そうですね。

 

杉本 例えば一日8時間くらいフルタイムで働いてアパート住まいしていた人とか。

 

 

 

札幌は正社員から路上へ、という人が多い

 

山内 やっぱり仕事していたという人は札幌は特に多いんじゃないかと思います。正社員から非正規、日雇い、路上へという経路がそれこそ岩田正美さんが調べたケースですけれど、札幌では正社員からいきなり路上へというような人が多いかなあと思いますね。

 

杉本 転職先が見つからない?

 

山内 うん。かもしれないですね。ちょっとこの辺も聞き方が難しいんですけど。いきなり仕事を失って路上というよりは無職の状態がず~と続いて、家賃が払えなくなって、直前まであった仕事は?と聞くと正社員でしたみたいな。でもその間に半年なり、1年なりが過ぎていく。

 

杉本 半年くらい失業保険とか、3ヶ月くらい失業保険とか。

 

山内 そうですね。

 

杉本 失業保険をもらっていたけれども、仕事が見つからずそのまま。なかなかアパートも残酷だなと思いますけど、「出てってください」ということで出ちゃったら、行き場所もなくなり、みたいな感じですかね。

 

山内 まあでも、いろいろですね。

 

 

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夜回りー路上生活をしている人を夜巡回して声かけなどをし、食事を提供したり、必要な支援の情報を収集したり、保護申請の同行に随伴するなどの支援活動のこと。

 

ベトサダーNPO法人自立支援事業所ベトサダ。脱路上のため、路上生活者の居宅支援事業などを行う。一時しのぎのシェルターではなく、自立した生活をしてもらう最初の一歩を踏み出す場所として「ベトサダ荘」などを運営している。

 

HPhttp://www.npo-bethesda.com/

 

なんもさサポートー生活困窮者の自立支援をしている合同会社。ホームレスや生活困窮者のためのアパートを安く提供し、自立支援のために食堂、リサイクルショップ、居酒屋などを運営している。

 

岩田正美―1947年生まれ。中央大学大学院経済学研究科修士課程修了。日本女子大学教授。研究テーマは、貧困・社会的排除と福祉政策。主な著書に『現代の貧困』(ちくま新書)など(mammo.tvインタビュー#229より)。なお、本インタビューでは参考図書として岩田正美『ホームレス/現代社会/福祉国家 「生きていく場所」をめぐって』明石書店 明石ライブラリー(2000年)を活用している。